日本vs欧州調査レポート 07 長野 近自然の森
2018年 06月 24日
2018.06.04
▲▲▲長野 近自然の森▲▲▲
Ⅰ調査コンセプト
【スイスフォレスターと見る日本の近自然森】
スイスから「近自然森」の在り方を伝えに来たフォレスターのロルフさん。
日本の森のこれからを考える上で、経営観をもって進める森づくりの考え方がとても興味深く、
それを学びに集まる日本の若手林業家たちの視点にも注目しながらワークショップに参加した。
主催は、近自然森づくり研究会さんhttp://www.sogoh-norin.co.jp/society/index.html と、荒山林業さん。

長野県大町市荒山林業山林地。
写真では伝えられないほどの気持ち良い森。
自然が作る光と影の心地よい現場で、平日丸1日のプログラムに、働き盛りの若手林業家たちが全国各地から集まった。
北は北海道から南は奈良県まで、35名が参加。私はキャンセル待ちで参加可能に。なかなかな人気だ。
朝9時から夕方4時まで、木の見方や育成木の具体的な施業方法まで濃厚な内容の参加型講習。
5ヵ所の林産地を実施に見ながらの解説はとても分かりやすく、現場でこそ理解できることが沢山あった。
12年前に長野に1年間通って山の仕事を学んだ森とはまた違う雰囲気の森。
地域が同じでもエリアごと、また、山づくりごとに感じがずいぶん違うなというのが第一印象。

明日香の久住林業・久住さんのお誘いで参加したいと思った理由は、
この「近自然森」の考え方に興味がわいたのと、スイスからこれを提唱するフォレスターがやってくる。
欧州でも林業について調査をしたいと言っていたので、久住さんが是非ロルフを紹介したいと、ありがたいお誘い。
午前中はカラマツ広葉樹混交林の風倒木現場でのトークセッション。
スイスの先駆的フォレスター
ロルフ・シュトリッカーさんhttp://www.kinshizen.jp/homepage/rolf_stricker-jp.htm
http://yamashigoto.com/webx.php?%E9%A6%99%E5%B1%B1%E7%94%B1%E4%BA%BA
通訳は、近自然学の著者でスイス在住の山脇正駿さん
http://www.kinshizen.jp/homepage/profile-jp.html
具体的で先進的な視点でもって森を見る。

2015年、100年に一度レベルの大きな台風で何割かのカラマツが倒れた。この写真はその時倒れた木の切株。
カラマツはお金になる大切な樹。しかも年輪を読むと90年生の素晴らしいものも。
経営的打撃は大きかったが「林業で一番難しい選木、伐倒を自然がしてくれた」と言った香山さんの言葉がとても印象深かった。
ポジティブというか、それすら許容する寛大さというか。
ロルフさんに、この森を次にどうつなげるべきかと聞くと。
まず、森を楽しむ。聞こえる音や声を感じ、よく観察する。と。
そして、ここで価値になる樹を見つけ育てる。
カラマツの年輪から幼木時代もストレスなくコンスタントな成長してきたことがわかる。
その他の広葉樹もこれほど大きく育っているのは計画的に施業をしてきた証。と言う。
以前に針葉樹と広葉樹の複層林の試みをしたものの非常に難しく課題が多いことからその施業方法を中断した事例を見学したことがあった。
横に枝を張る広葉樹が間伐時に邪魔になり伐倒が難しくなるし、リスクが多い。にここではそれをどう克服しているのか?
ロルフさん曰く、両方の木を完全に傷つけずに出在することは無理。だから優先順位を付ける。
①大きく育った木、又は育てたい木を守る。
②ブナなど(重要な樹種)は小さくても大切にする。
③真っすぐ育っている広葉樹(貴重な樹)を守る。
そして何より、この森で20~80年後に不足する可能性のあるものは何かを考えること。
人間には遠い先の話でも森には一瞬。森に関わる人間は自分の基準だけで考えてはいけない。と。
この森を次もカラマツの育つ森にするか否か悩ましい。
ロルフさんは、自分なら既に育ったカラマツをさらに育て、
成長の悪い木や環境に良くない木を間伐することで現在小さな広葉樹にも陽が当たり育つ可能性が高まる。
この森は現在30~40年生が少ないのでその樹齢の木を育てるように森をつくる。と。
大切なのは年齢、大きさ、樹種、環境共に一律にしないこと。
大きな木がいい価格で売れるように育て、そのお金で次の世代を育林する。
一つの森の中で多世代を混在させ、手入れの費用をその森の中で同時進行的に循環させる。
様々な樹種を育てるのは、災害による全滅を避け、時代によって変わる樹種のトレンドをいつでも有効に使えるようにするため。
完全な自然林で人間が林業として営みをするのは無理がある。
かといって自然環境とかけ離れた森づくりをすると非常にコストと労力がかかる。
「自然がかってにしてくれることは人間がやらなくていい。」ロルフさんのその言葉は妙に納得できた。
よく観察して、自然がなろうとする森と自分が目指す森がかけ離れないようにするのが近自然の森なんだと理解した。

この日一番人気の?樹。みんなの注目を浴びていたカラマツの赤ちゃん。カラマツは自然更新が望ましいらしい。
地表が倒木などで自然に現れ少し盛り上がったところに根づく。山主たちの期待を背負ってここで立派に育っていくことを願う。
この子に限らず、荒山林業ではもしかしたら樹一本一本に名前を付けているのでは?と思うほど、個体ごとを把握している感じ。
こんな愛溢れる林業にも感動する。
次は小径木の白樺がしっかりお金になったという素晴らしい事例の現場。
スキー場跡地。後自然更新17年目。桜、楓、ブナ、シラカバなどが育ち始めている。

ここでの話は手入れの時期と間伐ポイント。
平地は森が草地だったという事を示すために見学者向けに毎年刈り払っているが、斜面に生えている樹は手入れが遅れていて、
そろそろ何とかしないといけない密集具合。
斜面で間伐する場合は育成木の谷側を支えとして残し、山側はギャップをとるために切る。
ロルフさんは、木が密集しすぎると枝が伸ばせないまま背が伸び風雪時に共倒れになってしまうということを参加者の体を使って説明する。
言葉がわからなくても明るく楽しく伝える解説はイメージしやすい。


2011年ロルフさん来日時にどの木をどう育てるか、お互いの意見をバトルさせたエリア。
7年という月日が経ちそのジャッジがどうだったのかを見る。
どのくらいの時間をかけてどんな森にするかは、環境によって判断するべきで、どの木を残すか伐るかはそれぞれのフォレスターが責任も持って決める。
その判断があっていたのかどうかは、見る時代により変わるし、今間違ったと思っても将来的にはそれがあっていたという可能性もある。
ロルフさんは森が声を発するのをよく聞くことだと言った。
そして時折確認するようにと。手入れが過少すぎていないか、過剰すぎていないか。目指した森が正しかったか。
そして違っていたら修正していく。この見極めがフォレスターの最も大切な仕事のような気がした。
スイスでは、地域ごと森林タイプごとに示した「極相林」という地図があるらしい。
その森が極相林の状態になってもいいかどうかの判断もフォレスターがするという重要な職業。
日本ではそういったポジションが確立されていない。
誰かが昔に決めた施業方法を見直さず永遠と続けている森林は国土の70%の森林の内、ほとんどを占めるような気がする。
それに疑問を感じて悩み迷う若き林業従事者がこの貴重なレクチャーをはるばる聞きに集ったのだと思う。
この現象は「現代の日本の林業が発する声」なのかも。

この後は、7代目雅行さんの最後の仕事場となった森を見た。倒木によるホウの木の傷をどう見るか。
菌が入ってしまうと腐食が広がり価値が下がる。入っていなければもっと育てて価値を高めることができる。

この見極めもまたフォレスターの仕事。
ロルフさんの意見は5~10年間様子を見ながら見極めつつ、他の育成木とのバランを見るというものだった。

ここは「恒続林」http://d.hatena.ne.jp/sei-fuchi/20101031という収穫だけをして経営を成り立たせることを目指す森。
育林にコストを掛けず自然に任せることで経営が成り立つ環境になり得る。
今はその方向に促している段階。
それはただ放っておくという意味ではなく、特に幼木には手を掛け過ぎず、自然の原則に従うように見守る。
そうすることでその地にあった健全で個性的な森つくる。
なんだか、近自然の森づくりは、英才教育こそが素晴らしいという発想を反省して、のびのび育てる現代の子育て方法を取り入れ始めたというイメージ。
人間よりもゆっくり育つ樹たちにとって、それが正しかったかどうかはうんと先でないとわからない。
只、今できることは正しい知識の基適切な判断をし、次世代を考えながら愛をもって森をつくる。
これが人間と森が共存できる一つの方法なんだなと感じた。
Ⅲ【Morizo-の目】
荒山林業7代目の雅行さんという方はすごい方だったようで、道半ばで急死された後も後継者にその思いがしっかりと引き継がれているように感じた。
多様な植生の森を目指して現在若き8代目雄大氏が継承する林業はまさに「近自然の森」。
画一的な育林をせず、自然に近い植生を活かし、且つ「経営が廻るように」林業を考える。
自然状況に近づけることで過度な手間をかけずにすみ、それが経営を助けるという考え方。
ただほったらかすのではなく、お金になる樹(育成木)を見定めて環境を整える。
一本一本の木を見て、その木の何を活かすか、又はあきらめるかを個々に考えて施業を進める。頭を使う林業。スマートフォレストリー?
今回の企画に参加する前までの「近自然森」のイメージは、自然!環境!次世代に!の考えが九分九厘を締めていると想像していた。
それと経営がどう結びつくのかが疑問だったが、想像以上に経営に対する意識を常に持ち、
「自然や環境に良い」だけでは人が森に関わってはいけないという現実を見た気がした。
近自然林とは次世代を見据えて森と人間の健全なありかたを模索し続けるということなのかも。
その意識を現時点にも当てはめて、小さな結果を出しながら進めていく「優しい林業」に見えた。
そして、今回一番感じたことは、この日集まった日本の若き林業家たちの真剣さ。
熱心にメモを取り、質問をし、自分の物にしようとしている姿勢に感激した。
沢山の問題を抱え手立てがないようにも思える現在の日本の林業に明るい光を感じることができた。

荒山林業さんのABOUT
8代目山主の荒山雄大氏と新妻あゆみさん、そして7代目雅行さんの妻、里利さん。
江戸時代から続く家業を2018年に若き8代目夫婦が自営専業林業家として本格再始動。
スイスの先駆的フォレスターが現在日本で最も近自然の森に近いと称する森林は270haの人工林と天然林。
共に伐期を設けず非皆伐選伐施業を行う。
先代と里利さんが築いてきたネットワークに支えられ迷いながらも一生懸命取り組もうとする8代目の姿に周りの人も賛同し応援している。