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「例えばこの木」 06


[実家を離れる瞬間]
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宙に浮きました。
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すーぅーーっと吸い上げられて行くようです。
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あっという間に空高く離れていきます。あの木です。大黒柱になる子です。育った山を離れてお嫁に行くのです。
この子はすでに嫁入り先が決まっていますが、普通はこの後お見合いをします。吉野では競市がお見合い会場となります。中井さん達山守はきっと娘を嫁に出すような気分だと想像してしまいます。ひいおじいさんが植えて、おじいさんが幼少期を育て、お父さん、中井さんがこの日まで手塩にかけた。一本一本がいいところに行って、喜ばれ、永く愛されて欲しい。そう願うのは、これまでの時間と育ててきた人の思いを考えると決して大げさな事ではないです。
この日は40往復ヘリを飛ばして、たぶん5、60本は出材したと思いますが、そのどれもに同じことが言えるのです。
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真ん中に横たわっている長い木、途中で切っていますが、根元側の3mの子はお嫁に行けて、それより上の部分はこの場に残るのです。事情があり、お嫁に出してあげれないのです。その事情こそが現在の山の問題。いえ、日本の大問題なのです。
「昔はほうきで掃いたように全部持っていったんやって」西田さんが言います。もっと細い丸太や、枝もです。なぜ今は置いて行ってしまうのでしょうか?
答えは、木材単価が下がってしまったからです。ヘリ出材は人手が少なくて済むというメリットがありますがそれでも機長、西田さん、中井さん、そしてヘリポートで丸太を受け取る職人さん。最低4人です。
その後にもヘリポートから市場の土場まで持っていくのに丸太を整える人、積む人、運ぶ人が必要です。もちろん出材前に、伐る木を選定、伐採、サシ入れ、ワイヤー掛けと、出材だけでいったい何人工必要なのかと思うのです。
人員が少ない分、機材は必要です。ヘリコプター、レッカー、大型トラック、移動車やチェーンソーまで上げるときりがないですが、1つでも欠けるとこの子たちはお見合い会場まで行けないのです。
木は鉄やコンクリートに比べると何とか人の手でも扱える、有り難い素材ですが、それでも丸太は大きく重い。これを「運ぶ」という作業はなかなか重要なポイントなのです。しかも、何十年、何百年、沢山の手間と思いを込めて育てられた木を、お嫁に行く最後の最後で傷物にするわけにはいきません。大切に、丁寧に、見送りたい。かといってここにお金がかかりすぎるとお見合いのハードルが上ってしまい、貰い手がいなくなる恐れがあるのです。このギリギリの線をすれすれでやっている。それが現在の林業の現実です。ゆえに、泣く泣く山に置いて行く子を生んでいるのです。とっても残念でなりません。選ばれしミスユニバースですら全身を連れて出せないのです。
私、今度来てこの子連れて帰ってもいい?
「ええよ。」中井さんにも今はどうすることもできません。
もちろん私が担いで連れて帰ることもできないのです。(つづく)
Morizo-内田
森林・林業地案内 http://morizo-archi.com/soza-tour-forestry.htm



Commented by しゃべりすぎ爺 at 2016-09-13 00:19 x
どうやって搬出するのですか?
Commented by しゃべりすぎ爺 at 2016-09-13 00:19 x
どうやって搬出するのですか?
Commented by しゃべりすぎ爺 at 2016-09-13 00:20 x
どうやって搬出するのですか?
by morizo-archi | 2016-09-12 07:00 | 「例えばこの木」 | Comments(3)

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