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もくちくカフェweb版 02 「家」の存在

今日は知識の発信というより、思いを綴ってみます。
ここ最近自分の周りに、人生の節目や環境の変化の時期を迎える人が多く、思うことがいろいろありました。

「家」ってなんだろう?
そんな中で「家」について考えることが重なり、改めて自分の職業や家族について、考える機会を頂いてる気がしています。
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5/29(日)am7:40 大阪・伊丹は快晴でしたが
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熊本は雨が降っていました。知り合いの方の実家が益城町の近くで被災して、やっと家の中が片付き家での暮らしを再開する方向に。それに伴い、家の修理や耐震について相談を受けたのです。

自然の力
家に行く前に被害地の一部を見に少し車を走らせてくれたのですが空港から間もなく行くとブルーシートを掛けた家が見え始めました。
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鬼瓦が鯱で天守閣のような立派な家から、比較的新しい家まで、沢山の家が被害を受けています。
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山裾の集落にもシートを掛けた家が沢山見えます。被害を受けた家にも自然は容赦なく、余震や雨の追い打ちを掛けるのです。
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近づいていくと、シートを掛けた家は、直してどうにかすることを考えうる家で、シートさえ掛けていない家は、もうどうすることもできない状況です。木造住宅の典型的な壊れ方を沢山目にし、新潟や東日本震災の光景が蘇ります。

ひとくくりに出来ない
今回特に感じたのは、古さや構造種別に関わらず被害の状況の差が激しいように見えました。道の右側は健全なのに左側は大惨事という光景も多々あり、スポット的な被害が点在している、震源地の近さやエリアだけで被害度を判断しにくい、そんな印象です。これだけ隣接地で被害の差があるのは、かなり微妙な地盤の影響と建方の影響が複雑に絡み合っているのかもと感じます。
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復興作業がどのくらい進んでいるのかまで具体的にわかりませんでしたが、地震発生から1ヵ月が過ぎ、被害調査や再建に向けての動きは少しずつ進んでいるようです。
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相談を受けたお家に着くとご両親が迎えてくれて、家の話を沢山聞かせてくれました。屋根や外壁に被害が出て雨漏りもし始めていますが、40年前に丁寧に建てられた家は大きな傾きが少なく、所見では修繕をすると十分暮らせるように見えます。

家づくり
建具屋さんだったお父さんは鮮明に建てた時のことを覚えていて、丸太の真ん中を柱や梁を木取して、廻りの部分を建具材に使い、船大工さんと5年掛けてしっかり作った家をとても愛していたのです。大阪から来た設計士に、息子たちにも話したことが無かったような家づくりのあれこれを、まるで女子高生のようにかわいらしく嬉しそうに話すのです。13歳で建具屋さんに弟子入りした時の話から、60歳頃には建具組合で活躍するに至るまで、会社を立ち上げ職人さんたちを育ていろんな時代を生き抜いた人生話も聞かせてもらい、すごいなーと感動しました。
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被害ヵ所や家具などの転倒状況の聞き取りからこの家は主に東西に揺れたことがわかりました。X軸方向とY軸方向の被害度の違いが顕著です。
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また、筋違の有無による被害差も、基礎の違いや劣化による影響も、小屋裏や床下確認と、建てたときの話を細かく伺うことで被害の理由がよくわかりました。

現状と経緯の足し算
今回の調査では主に見える部分の確認のみとなりましたが、家を一通り見て話を聞くと、見えない部分もイメージとして見えてくるように感じます。
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驚いたことに、座敷では鴨居や長押に全く隙間が出来ておらず、出隅(出っ張った角っこ)ですら隙がないのです。40年経った家としては地震が無くても立派な事です。自慢の木製建具も全てがなんともスムーズに動き、柱の傾きはレーザーを当ててびっくりするほど垂直で、震度7を2度も受けた家とは思えない精度なのです。

瓦は落ち、箪笥は他の家具を飛び越え倒れ、額の中の絵は大きくずれていました。家が揺れなかったのではなく、大きく揺れた後、元のタチ(縦方向の精度)に戻ったのです。私は木造の靱性(粘り強さ)を活かした工法に関心があり、伝統工法が適切に評価しやすい「限界耐力計算法」という耐震構造を学んでいますが、柱や梁のサイズが大きな社寺仏閣だけでなく、一般の住宅でも十分にその性能を発揮した実例を目の当たりにした気がしました。もちろん地盤特性や施工精度、素材の力だけでなく、運やさまざまな要素が重なった結果の奇跡だったのかもしれません。でも、耐震診断をする上でとても大切と思えたのは、家づくりの「ナマの情報」です。数字には乗らない効果や弱点は見た目や寸法だけでは判断できないこともあると思うのです。思い入れを持って作った当時の情報を加味して合点のいく結果が見えたとき、初めてほんとの診断ができるのかもしれないと、今回の調査経験で感じました。

改めて、家とは一体なんだろう。
住宅は、建築としての構造物、風雨から暮らしを守るモノ、家族の営みを育む空間、また、時として災害により人命を奪うものになる場合もあるのです。
 今回私は、直接被災した一つの家族に接したことで色々なことを考えさせられました。家は、物理的なハードとしての要素はもちろん、家に対する思いや家族を繋ぐ歴史などソフト的要素が、これまで意識していた以上に大きなものだと痛感しました。住宅設計や耐震診断をする上でこのハードとソフトの両方をきちんと汲み上げて、相談に応え適切なアドバイスができる様、今後も精進せねばと強く感じました。

そもそも仕事柄、暮らしの節目に立ち会うことが多いのですが、最近 近しい人が次々と結婚や移転、旅立ちなど人生の節目を迎えていて、そのせいかとても時の流れを感じる今日この頃なのです。あちこちで起こる自然災害や事件もいつ自分の身に振りかかるかわかりません。誰もが変化する日々にいやでも対応しながら生きている。いつの時代も、壊れては戻し、失っては作る、を繰り返している。営みって儚いない、、、それでも考えうる策を講じ、その都度判断し、謙虚に歩む。それが自分に出来ること。今私は、そんなことを改めて考える時期なのでしょうか。
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素敵な建具が沢山あるお父さん自慢のお家。今後もし住み手が変わっても、アレンジを加えても、使い継がれて欲しいなと思う家でした。この家のご相談に伺えたことがとてもうれしく、感謝したいです。ありがとうございました。


さて、今回のカフェタイム
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「三点足付豆皿」光沢トルコ青・濃い方 1,080円
作者:廣川みのり:陶芸家 信楽にて作陶
やままちギャラリーにて展覧会開催中
6/1(水)-6/19(日)13:00-19:00(月・火曜定休日)
詳しくはこちら⇒「花のうつわ展」


Morizo-チョイスポイント:初夏に少し涼しげな青い豆皿がいいなーと思いました。
手作りのレモネードを炭酸で割って、抹茶のスポンジケーキと一緒に。
この豆皿は四角くくて湾曲してるので薬味入れと箸置きを兼務できる子だなとも思っています。
こんど、おそうめんを食べるときに使ってみよっ♡
商品情報:さいえ

by morizo-archi | 2016-06-05 18:27 | もくちくカフェweb版 | Comments(0)

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